新規顧客の獲得から既存顧客のファン化まで、販売促進の手法とポイントを全4回で解説!「小売業の販売促進活動」シリーズ公開中。

売価調整の考え方と“これからの見切り業務”を解説 見切りシールの研究 第4回「売価決定のしくみと見切りの“新しい潮流”」

見切りシールの研究 第4回 アイキャッチ画像

※本記事は全4回構成の連載の一部です
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※本シリーズは、株式会社アール・アイ・シー刊「食品商業 2026年7月号」掲載の
弊社執筆記事をもとに再編集したものです。

ここまで、見切りシールの役割や課題、3つの方式の機能やデザインなどについて見てきました。

最終回となる今回は、見切り売価をどのように決めるのかという実践的な考え方と、AIによる意思決定の補助やサイネージを用いた価格告知など、これからの見切り業務の展望についても解説します。

目次

見切り売価を決定するプロセス

見切りを行う上で最も基本となる方針は、「無意味な安売りはしない」ということです。
売価を更新していく上で、必要となる考え方を以下で解説します。

見切り売価の限度

いくら見切りとはいえ、通常の価格と比べて極端に安い売価を付ければ価格破壊を招き、普段提示している定番売価の「お値頃感」は失われてしまいます。

「お値頃感」とは高すぎず安すぎず、品質に見合ったバランスがちょうどいい売価のことです。

価格破壊によって消費者の適正価格に対する認識が崩れると、「普段の価格で買うのは損ではないか」という印象を与え、結果として買い控えを誘発するだけでなく、店舗の価格設定への信頼を損なうおそれがあります。

多段階的見切り

十分な作業人時を確保できるという前提であれば、見切り売価は小刻みに段階的に下げていくのが基本です。

例えば、「閉店3時間前は10%引き、2時間前は30%引き、30分前は50%引き」のように、時間の経過や売れ行きに応じて売価を段階的に変更します。必要以上の値引きを避けながら販売機会を確保できるため、粗利益をできるだけ残すことができます。

▼図表1:多段階見切りのシミュレーション

見切りシールの研究 第4回 図表1

また、「無意味な安売りをしない」ための工夫として、翌日に持ち越せる商品は最小限の値引きにとどめることも重要です。

ある企業では、毎日入荷する日配商品について、売れ残った前日入荷品に3%引きの見切りシールを貼り、当日入荷品と区別して販売しています。賞味期限が1日短いという理由を価格に反映することで、消費者は鮮度と価格という判断材料で合理的に商品を選ぶことができ、納得感につながります。また、商品回転率の向上も期待できます。

ただし、多段階見切りの課題となるのが人手不足です。多くの企業では、見切りシールを貼る作業員を十分に確保できず、本来であれば段階的な値下げによって得られる利益を逃しているケースも少なくありません。

▼人員不足を解消するための方策となり得る、自動発注やAI需要予測についてまとめた記事もご用意していますので、ぜひ併せてご参照ください。

見切りの“新しい潮流”

ここからは、見切り業務を取り巻く新しい潮流について見ていきましょう。

多方面でのAI活用やダイナミックプライシングの導入など、テクノロジーの進化によって、今後の見切り業務の風景は大きな変化を遂げていくことが予想されます。

AIによる製造・発注の精度向上と見切り判断の最適化

「売れる商品を、売れる時に、売れる量だけ売場に供給する」ことは、小売業が目指す理想の姿です。

AIは、販売実績や曜日、天候、販促情報などのデータから需要を予測し、製造量や発注量の最適化を支援します。さらに近年では、需要予測や在庫状況、販売ペースなどをもとに、「いつ」「どの程度値引きを行うべきか」といった見切り率やタイミングを提案するソリューションも登場しています。

これまで担当者の経験や勘に頼る部分が大きかった見切り判断ですが、AIがデータに基づいた判断材料を提示することで、高い精度の維持や、人材育成にかかる負担の軽減なども期待されています。

「てまえどり運動」による見切り商品発生のミニマイズ

ここまで、発生した見切り商品をどのように販売するかについて解説してきましたが、店舗運営の視点では、見切り商品を適切に売り切るだけでなく、見切り商品自体を減らすことも重要です。

「てまえどり運動」は、来店客に対して、購入後すぐに食べる予定の商品は、棚の手前にある期限の近い商品から選んで購入してもらうよう呼びかける取り組みです。
小売業者・環境省・自治体が連携し、食品ロス削減の取り組みの一つとして推進しており、啓発用ポスターを環境省や自治体のホームページからダウンロードして使用することもできます。

店舗側としては、期限の近い商品から順に購入されることによって、売れ残りによる廃棄を減らすだけでなく、見切り対象となる商品の発生抑制(利益率の確保)にもつながります。また、来店客にとっても、期限を理解したうえでお得に商品を購入できるため、双方にメリットがある取り組みといえます。

見切りシールを使わない見切り ― ダイナミックプライシングの実現

近い将来、見切り業務は、見切りシールを貼る運用から、ダイナミックプライシング(動的売価設定)へと進化していく可能性があります。

多段階見切りの課題として「人手不足」を挙げましたが、電子棚札などを活用したダイナミックプライシングでは、シールを貼り替える作業そのものが不要となり、値下げを行う回数にも制限がなくなります。

さらに、時間帯や曜日、天候、販売状況、競合店の動向などに応じて売価をリアルタイムで変更できるため、一度値下げした商品を販売状況に応じて値上げするといった柔軟な運用も可能です。シールによる見切りでは難しかった、細かな価格調整が実現できるようになります。

このような仕組みは、すでにGS1 Japan(流通システム開発センター)による実証実験も行われており、今後の普及が期待されています。

想定されている運用イメージは以下の通りです。

▼図表2:QRコード入りラベルを利用したダイナミックプライシングの運用イメージ

見切りシールの研究 第4回 図表2

①商品に識別用ラベルを張り付ける
商品には、表面に来店客が識別できる「A」「B」などの記号を表示したラベルを貼り付けます。例えば、製造時間帯ごとに「朝7時製造=A」「11時製造=B」のように識別記号を設定することで、同じ商品で消費期限ごとに区別できるようにします。また、商品裏面には、既存のJANコードを覆う形でQRコードを表示した管理ラベルを貼り付けます。このQRコードには、JANコードや消費期限が格納され、POSシステムが商品を識別するために利用します。

②POSから値下げ対象を指定する
見切りのタイミングになると、POSシステムから対象商品の値下げ指示を送信します。例えば、「識別記号Bの商品を30%引き」といったように、特定の製造ロットの商品だけを対象に売価変更を行います。同じSKUの商品であっても、製造ロットが異なる商品には異なる識別情報が付与されているため、対象商品のみを細かく管理できます。

③レジで自動的に値下げ販売する
レジでは、商品裏面の二次元バーコードを読み取ることで、商品情報に加え、対象ロット(「A」、「B」など)を判定します。値下げ指示が出ている商品であれば、自動的に割引価格が適用され、対象外の商品は通常売価のまま販売されます。これにより、従来のように商品単位でシールを貼り替えることなく、製造ロット単位での細かな売価管理が可能になります。

④ シール貼付作業をなくし、柔軟な価格変更へ(サイネージの活用)
値下げ内容は、デジタルサイネージなどを活用して来店客へ案内します。見切りシールの貼付や貼り替え作業は不要となり、店舗担当者は売場でのシール作業ではなく、販売状況の確認や売場管理に注力できます。また、システム上で売価を変更できるため、多段階での値下げにも柔軟に対応できます。

▼図表3:デジタルサイネージを活用した見切り情報掲出のイメージ

見切りシールの研究 第4回 図示3

シール貼付作業の制約がなくなることで、販売期限までの需要予測をもとに、より細かな価格調整が可能になります。

売れ行きが想定を下回る場合は値引きを強めて販売を促進し、需要が高い場合は値引きを抑えることで、廃棄削減と利益最大化の両立を目指せます。

ホテルや航空券、イベントチケットなどで活用されているダイナミックプライシングの考え方が、小売の見切り販売にも応用され始めています。

【参考・出典】
GS1 Japan 一般社団法人 流通システム開発センター 公式サイト
「GS1 Japanソリューション第1部 グロサリー業界グループのレポート」https://www.gs1jp.org/standard/industry/2d-in-retail/usecase01.pdf

むすび

見切りシールの研究 第4回 ヘッダー2

これまで見てきたように、普段何気なく目にしている見切りシールにも、売価管理や食品ロス削減につながるさまざまな工夫が込められています。

また、あたらしい潮流として紹介した「てまえどり」や「ダイナミックプライシング」のような来店客の習慣にも変化をもたらす取り組みを広げ、定着させていくためには、食品ロス削減という目的・背景を丁寧に伝え、店舗と来店客が共通の理解を持ちながら進めていくことが重要です。

店舗側は無駄な廃棄を減らしながら利益を最大化し、来店客は必要な商品を納得感のある価格で購入できる。そして社会全体では食品ロス削減につながる。

売り手よし、買い手よし、社会よし――
見切り業務の進化によって、これからの小売業界に“三方よし”の未来が実現していくものと考えます。

本シリーズ全体の内容をまとめて確認したい方は、
下記リンクより雑誌掲載版の記事全文をご覧いただけますので、
あわせてご活用ください。

『食品商業』2026年7月号掲載版記事 全文はこちら(PDF形式 3MB)
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