システム改善と、消費者意識の両面から取り組む。 小売店の食品ロス対策 第3回「AI技術の活用と来店客への働きかけ」

※本記事は全4回構成の連載の一部です
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※本シリーズは、株式会社アール・アイ・シー刊「食品商業 2026年8月号」掲載の
弊社執筆記事をもとに再編集したものです。
AIを活用した食品ロスの削減
第2回では、見切り・値引きや発注・在庫管理など、販売現場でできる食品ロス対策を見てきました。こうした取り組みをさらに高度化する手段として、近年注目されているのがAIの活用です。
食品ロス対策におけるAI活用のポイントは、販売機会・利益を確保しながら、売れ残りをどこまで減らせるかという、相反しやすいように思える課題の解決策を見つけ出すことにあります。
過去の販売実績や天候、曜日などさまざまなデータをもとに需要を予測するAIは、発注量や値引きの判断を支援します。特に消費期限の短い商品では、「どれだけ売れるか」だけでなく、「いつまでに、どれだけ売り切る必要があるか」まで考慮することが重要です。
▼図表1:AI活用による商品の需要予測フロー例

もちろん、AIによる需要予測を導入すれば、それだけで効果を得られるというわけではありません。予測結果を実際の発注や値引きにどう反映するか、現場で無理なく運用できるかまで含めて考える必要があります。
例えば、次のようなケースでは、AIを導入しても期待した効果が得られないことがあります。
AI需要予測においてつまづきやすいポイント
①データが整っておらず、予測の精度が上がらない
POSデータと実際の在庫数にずれがある、欠品によって「売れなかった」のか「需要がなかった」のか判断できないなど、元となるデータに問題があると、AIも適切な予測を行うことができません。
②現場のオペレーションと合っていない
AIが算出した発注量や値引き率が現場の作業時間や売場の運用に合わなければ、担当者が十分に使いこなせず、定着しないままになってしまいます。
③「AIが判断してくれる」と考えてしまう
AIは過去のデータやさまざまな条件から予測・提案を行うためのツールです。導入するだけで食品ロスが自動的に減るわけではなく、予測結果を確認し、必要に応じて調整する運用が欠かせません。
さらに、食品ロス対策において難しいのは、廃棄を減らすことだけを目標にすればよいわけではないことです。発注を絞りすぎれば欠品が増え、販売機会の損失につながります。逆に、欠品を避けようとして多めに発注すれば、売れ残りや廃棄が増える可能性があります。
AIの導入では、単純に「廃棄を最小化する」のではなく、欠品・過剰在庫・値引き・廃棄などを含め、店舗全体としてどの状態が最適なのかを考えることが重要です。
AIによる食品ロス削減を成功に導くポイント
AIを価格や発注数の最適化、そして食品ロス削減に活用するためには、システムを導入することだけを目的にするのではなく、データ・対象範囲・現場運用の3つを段階的に整えていくことが重要です。
①データを整備・統合する
AIによる予測の精度は、学習に使うデータの質に大きく左右されます。POSデータだけでなく、実在庫とのギャップや欠品の状況なども確認し、予測に利用できる状態に整える必要があります。また、顧客データなど複数のデータを組み合わせることで、より多角的な分析につなげることもできます。
②まずは小さく試す
いきなり店舗全体へ導入するのではなく、特定の部門だけなど、対象を絞って効果を検証する方法も有効です。小さな範囲から始めることで、現場への影響を抑えながら、導入効果や課題を確認できます。
③現場に合わせて改善する
AIは導入して終わりではありません。実際の予測と販売結果を比較し、現場からのフィードバックも取り入れながら、運用や設定を継続的に調整していくことが重要です。AIの判断を現場に押し付けるのではなく、店舗の業務に合わせて活用方法を改善していくことが、定着と効果につながります。
AIはあくまでも有用な「ツール」であり、重要なのは、AIによる示唆に全てを任せきることではなく、店舗の業務や目的に合わせた運用設計を行い、継続的に改善していくことです。
売場づくりと消費者への働きかけ
AIによる需要予測や発注・値引きの最適化など、店舗側から食品ロスを減らす取り組みの重要性が増す一方で、食品ロス問題の解決には店舗側の工夫だけでなく、消費者が商品を選び購入する際の行動を変えていくことも必要不可欠です。
そこで近年では、売場のつくり方や販売方法を工夫し、消費者が環境へ配慮した選択を無理なく行えるようにする取り組みも進められています。
“てまえどり”の推進
「てまえどり」とは、商品棚の手前にある販売期限の近い商品を、消費者に選んでもらう取り組みです。
店舗側では、手前の商品を取りやすくする前進陳列を心掛けるとともに、消費者に「てまえどり」を呼びかけるPOPやシールなどを設置することで、自然に販売期限の近い商品を選択してもらえる売場づくりを行います。
「てまえどり」は、農林水産省が推進する「食品ロス削減国民運動」の取り組みの一環としても位置づけられており、環境省や各自治体なども普及・啓発を進めています。こうした取り組みは、店舗側が一方的に廃棄を減らすのではなく、消費者にも食品ロス削減への参加を促すという点が大きな特徴といえます。
▼図表2:消費者庁、農林水産省、環境省の「てまえどり」POP

自治体の取り組み
全国の各自治体による「てまえどり」の推進は徐々に広がっており、コンビニやスーパーマーケットなどの事業者と連携し、売場への啓発POPの掲示やキャンペーンを通じて、消費者に「てまえどり」を呼びかけています。
図表3:自治体による「てまえどり」推奨POPの一例(福島市)

例えば、鹿嶋市では、中学生がSDGs学習の一環として作成したオリジナルPOPを活用した啓発を実施しています。また、岡山県のスーパーマーケットでは、割引シールが付いた「てまえどり」対象商品を購入したレシートを使って県産品が当たるキャンペーンを実施するなど、楽しみながら参加できる仕掛けによって消費者の意識向上を図る取り組みも行われています。
このように、自治体と小売事業者が連携し、「知ってもらう」だけでなく「実際に選んでもらう」ための工夫を取り入れる事例も増えています。
バラ売り・少量パック販売
必要な量だけを購入できるようにすることで、使いきれずに食材を捨ててしまうことを防ぐ取り組みも進められています。
野菜のバラ売り(1個単位)、肉・魚の小分けパック(少量パック)、総菜をハーフサイズや小盛りにして販売するなど、消費者が自分の必要量に合わせて商品を選べる売り方です。
特に、単身世帯やシニア層など、一度に購入する量が少ない消費者にとっても利用しやすい販売方法として、こうした取り組みを強化するスーパーマーケットも増えています。
食品ロスを減らすだけでなく、消費者にとって「必要な分だけ買える」という利便性の向上にもつながるのが特徴です。
予約販売の促進
クリスマスケーキや恵方巻などの季節商品は、販売期間が限られているため、需要を見誤ると大量の売れ残りが発生する可能性があります。そこで、店頭に商品を並べてから販売するだけでなく、正式な発売日より前に顧客から注文を受け、予約数をもとに必要な数量を製造・仕入れする「予約販売」の活用が進んでいます。
予約制にすることで、需要を事前に把握できるため、過剰な発注や製造を抑え、売れ残りの削減につなげることができます。また、確実に購入できるという安心感から、顧客の購入意欲を高める販売促進策としても機能します。
「売れる分だけ用意する」という考え方は、需要と供給のミスマッチを抑える=食品ロスを減らしながら機会損失を回避するための合理的な方法の一つといえるでしょう。

ここまで見てきたように、AIによる需要予測や値引きの最適化、てまえどりや少量販売、予約販売など、食品ロスを減らすための方法は一つではありません。重要なのは、技術と現場の工夫、そして消費者の行動を組み合わせ、食品を無駄なく販売・消費できる仕組みをつくることです。
次回(第4回)は、フードバンクやアップサイクルなどの取り組みや、
食品ロス削減が小売企業にもたらす可能性について考えます。
第4回を読む
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