AI需要予測で変わる発注業務-スーパーマーケットにおける発注精度向上と業務効率化-

店舗運営における課題
スーパーマーケット業界での店舗運営では、発注業務の効率化が最重要課題のひとつです。
発注業務は単に商品の補充を行うだけでなく、在庫管理や欠品防止、食品ロス削減、さらには物流効率にも関わる重要な業務です。
したがって、本来は製造元から物流、小売店の売場に至るまでサプライチェーン全体での改善が理想ですが、ここでは小売企業が主体となって取り組んでいける「発注業務のAI活用」に焦点を当てます。
これまでにも、自動発注(セルワンバイワン方式や在庫基準型方式)の導入により、担当者が締め時間に追われながら行っていた発注作業と比較して、約50%の作業時間短縮が実現されてきました。
さらに近年では、AIを活用した来店客数予測や販売数需要予測を自動発注に取り入れることで、発注精度の向上とさらなる業務効率化が進んでいます。
実際に、AI需要予測を活用した発注業務の見直しによって、作業時間を75%以上短縮した事例も報告されています。
こうした成果を支えているのが、過去の販売実績や天候・季節特性などを活用したAIによる需要予測です。
AI需要予測のしくみ
販売数予測の考え方
店舗での販売数を予測するためには、過去の販売実績や価格、天候、イベント、季節変化などの実績データに加え、来店客数予測や天気予報、販促計画、予定価格など未来の予測情報を組み合わせて分析します。
AIはこれらのデータから商品の需要を予測し、日別の販売予測数を算出します。さらに、その販売予測数をもとに、商品の発注単位や納品までのリードタイム(L/T)を考慮した発注数量の算出へとつなげていきます。
必要なデータ
予測に用いるデータは大きく分けると「内部データ」と「外部データ」の2種類です。
それぞれの項目について見ていきましょう。
▼図表1:販売数予測に必要な各種データ
| 区分 | データ項目 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 内部データ | POS販売データ(過去実績) 当週・前週・前々週、前年同期間 | 売上数量、価格、顧客データ 客数、特売企画情報 |
| 在庫データ推移 (直近の4週間で比較) | 入荷数、販売数、返品数、 振替数、廃棄数 等 | |
| 商品属性 | カテゴリー、賞味期限、 サイズ、規格、容量 | |
| 外部データ | 天候情報(過去実績&予測) 今年、前年の同期間と今後の予測 | 気温(最高・最低)、 天候(晴・曇・雨・雪・暴風・雷) |
| カレンダー | 曜日、祝日、給料日、年金日 | |
| イベント・販促情報 (過去実績&予測) 今年、前年の同期間と今後の情報 | チラシ・特売、 地域イベント(運動会、祭り、花火 等)、 季節イベント(バレンタイン、節分、 母の日、父の日、ハロウィン、X’mas 等) | |
| 統計データ(過去実績) | 公的統計データ (人口、世帯、経済、労働 等) 民間統計データ (業界データや事業業態データ 等) |
このような多様なデータを統合して処理することで特徴量(Feature)を算出し、モデルの特性に基づき、発注数が決定されます。
特徴量(Feature)については、下記の記事もご参照ください↓。
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自動発注の主な需要予測モデル
適用する部門・目的に応じて最適なAIモデルを選択します。
AI需要予測では、過去の販売実績だけでなく、価格変更や販促施策、天候、曜日特性など多様な要因を考慮します。
そのため、データの特徴や予測の目的に応じて複数の予測モデルが活用されています。
代表的なモデルとその特徴は以下のとおりです。
▼図表2:需要予測モデルそれぞれの特性
| モデル種別 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 勾配ブースティング (LightGBM / XGBoost) | 表形式データに強く、 実務で最も多く採用されている。 | ・日別来店客数予測 ・日別販売数の予測 ・在庫最適化 |
| 時系列モデル(LSTMなど) | 季節変動・トレンドに強いモデル。 長期依存型を学習。 | ・週次・月次の需要予測 ・52週販売指数 |
| トランスフォーマー系 | 複数商品・店舗を同時に学習。サプライチェーン全体を俯瞰。 | 商品部バイヤーの販売計画、 販促計画立案等 |
発注量の算出
発注数の決定には、今後の日別需要予測数と、リードタイムや最小発注単位数量(ロット)、物流面での「納品頻度」「納品形態」 を考慮した上で最終的な発注数を算出します。
▼図表3:発注数の計算式
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発注数は、算出して終わりではなく、継続的な実績のフィードバック対応が不可欠です。
予測結果を検証し、改善を繰り返すことで、需要予測と発注精度の向上を図ります。
主な取り組みとして、以下のような改善を実施します。
- 実績と予測のギャップを分析し、乖離要因を特定する
- 乖離データをもとにAIモデルを再学習させ精度を高める
- 季節変化・特売・地域イベントへの適応を随時行う
(※特に、天候・気温情報は、イベント対応の肝になります。)
こういった改善を重ね、来店客数や需要予測等の学習が進み、更なる精度の向上を図ることができます。
需要予測のより高度な活用
AI需要予測は、基本的な販売実績や来店客数だけでなく、さまざまな条件を追加していくことで、さらなる精度向上が期待できます。その結果、売上や利益の最大化につなげることが可能となります。具体的には、以下のような方法があります。
クロスエフェクト(商品同士の相関関係)の学習
・鍋つゆの販売が伸びると、白菜やしらたきなどの関連商品の販売も増加する傾向がある
・特定メーカーの緑茶飲料が特売になると、競合商品の販売数は減少する一方で、機能性表示食品など付加価値の高い商品への影響は小さい傾向にある
といったように、商品の販売実績から商品間の関係性を分析し、需要予測に反映する手法です。
このような商品間の相互関係を学習することで、より精度の高い需要予測と発注につなげることができます。
価格弾力性の学習
価格弾力性とは、商品の価格変動に対して需要がどの程度変化するかを示す考え方です。
AIは過去の販売実績や価格変更時のデータを分析し、値下げや値上げによって販売数がどのように変化するかを学習します。
これにより、価格帯ごとの需要変化を予測し、販促効果を最大化できる価格設定の検討が可能となります。
また、気温や天候などの条件と価格帯の関係も学習することで、季節や販売環境に応じた、より精度の高い需要予測につなげることができます。
適切な価格弾力性を把握させることで、過度な値下げによる利益の低下を防ぎながら、販促効果と売上の向上に寄与します。
ダイナミックプライシング
ダイナミックプライシングとは、需要予測にもとづいて価格を柔軟に調整する手法です。
AIによる販売数予測を活用することで、製造数や販売価格を状況に応じて最適化することができます。
特に生鮮食品や惣菜などでは、需要予測をもとに製造数を調整するとともに、値引きのタイミングや値引き率を最適化することで、廃棄ロスの削減と利益率の向上が期待できます。
例えば、15時・16時・17時での残数と販売状況から、閉店までの販売見込みを予測し、最適な値引き率を提示します。時間帯ごとの販売ペースに応じて段階的な値引きを行うことで、過度な値引きを抑えながら売り切りを目指すことが可能です。
近年では、デジタルサイネージと連携し、値引きシールを貼り替えることなく自動的に価格を変更できる仕組みも登場しています。
AI需要予測との連携が進むことで、より効率的な価格最適化が期待されています。
物流問題を考慮した発注タイミングの改善
従来は、多品種少量の商品を毎日発注・毎日納品することが、欠品リスクや在庫負担を抑える方法として広く採用されてきました。
しかし近年は、物流業界における人手不足や配送コストの上昇などを背景に、店舗側でも物流効率を考慮した発注・納品計画が求められています。
AI需要予測を活用することで、販売見込みや在庫状況を踏まえながら発注タイミングを最適化し、納品物量の平準化を図ることが可能です。これにより、物流センターや配送業務の負荷軽減だけでなく、店舗における荷受けや品出し作業の効率化にもつながります。
例えばグロサリー部門では、飲料を奇数日に、菓子を偶数日に発注するといったように、カテゴリーごとに発注日を分散させる運用が考えられます。
また日配部門でも、水物は奇数日、練り物は偶数日というように発注日を分けることで、納品量の偏りを抑えることができます。
このようにカテゴリー単位で発注日・納品日を分散させることで、商品の入荷や補充の流れを平準化し、荷受けや売場補充作業の負荷軽減につながります。
また、部門全体としては毎日納品を維持しながらも、商品群ごとに納品日が分散されるため、同一商品の補充頻度を抑えることができます。その結果、毎日少量ずつ補充を行う必要が減り、作業効率の向上が期待できます。
まとめ:スモールスタートと、継続的なカイゼン
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AI需要予測は、大きな効果が期待できる一方で、システムを導入するだけで成果が得られるものではありません。導入効果を最大化するためには、データ管理や運用体制の構築、継続的な改善が重要となります。
導入にあたってのポイント
- データの整備と統合
入出残データの精査(実在庫とのギャップ確認)や顧客データの統合を行うことが予測精度の向上に繋がります。 - 小さく始める
特定の部門やエリアなど、対象を限定して試験導入し、効果を検証しながら徐々に展開していくことで、無理なく定着させていくことができます。 - 現場に合わせたカイゼン
導入後も予測結果と実績の差異を確認し、運用方法や設定条件を継続的に見直しましょう。導入して終わりではなく、フィードバックを重ねることで、より高い効果を発揮します。
発注業務においては、AI需要予測と自動発注を組み合わせることで、作業時間の短縮、在庫の適正化、廃棄ロスの削減を同時に実現することも可能です。
とはいえ、全部門を対象に一斉導入するのではなく、まずは1部門や1店舗からスタートし、効果を確認しながら段階的に活用範囲を広げていくことが、成功への近道といえるのではないでしょうか。



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